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大阪高等裁判所 昭和25年(う)1175号 判決

被告人

宇野義男

外五名

主文

本件控訴はいずれも之を棄却する。

理由

被告人紀之定清次の控訴理由第一点について。

弁護人は原判決は判示第十二事実認定の証拠として、原審相被告人中林義明の自供始末書及び同被告人並びに原審相被告人藤原秀雄に対する検察官の第一回供述調書を掲げているが、いずれも原審公判で弁護人から異議を述べているのであるから違法であると主張する。(中略)

次に所論検察官の供述調書の当否について調査するに同調書は刑事訴訟法第三百二十一条第一項第二号の書面であるから同号及び同法第三百二十五条の要件に該当するか否かによつてその証拠能力が決定せられるのである。記録を調査するに原審被告人中林義明及び藤原秀雄はいずれも右供述調書によれば検察官の面前では判示第十二事実に関する部分について自供しながら原審公判では之を否認しているのである。従つて本件は同法第三百二十一条第一項第二号の「公判期日において前の供述と相反する供述をしたとき」に該当する。然も原審被告人中林義明及び藤原秀雄はいずれも原審相被告人紀之定昊の友人であり、本件被告人紀之定清次は昊の父であつて、各被告人は原審では同一公判廷で審理をうけ且つ中林義明及び藤原秀雄は原審公判でそれぞれ自己の犯行のみは自認しているのである。従つてかかる情況の下では同人等が被告人清次のために不利益な供述をすることのできないのは人情の自然ともいうべきものであると認められるから、判示第十二事実に関し同人等が検察官の面前でなした供述は公判期日における供述よりも信用すべき特別の状況があると考えられる。而して右各供述調書について中林及藤原はそれぞれ原審公判では証拠とすることに同意しているし、反証の見るべきものもないから、右書面は同法第三百二十五条「その書面に記載された供述が任意にされたもの」に該当する。

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